東京高等裁判所 昭和40年(う)637号 判決
被告人 細川英香 外三名
〔抄 録〕
論旨は、要するに、原判決は、旧全日本労働組合会議傘下の労働組合支部役員である被告人丹波克博および旧日本労働組合総同盟傘下の労働組合支部役員である被告人高木信幸は、ほか二名と共謀のうえ、昭和三八年一一月二一日施行の衆議院議員選挙に際し東京都第五区から立候補した重枝琢己に投票を得しめる目的をもつて、(一)、予て右被告人らが協議、決定した東京都北区内の前記両団体系労働組合が組合員を動員してその組合員宅を戸々に訪問させ、選挙人であるその家族らに右組合が前記候補者の支持、推薦を決定したことを告知することによつて同候補者のため投票を依頼するという計画にもとづいて動員されて来た右候補者の運動者である原判示稲葉博ほか三二名に対し、右選挙区の選挙人である原判示小林トキ方等を戸々に訪問し、右方法で前記候補者のため投票を依頼するように指示し、右稲葉らにその旨決意をさせて、教唆し、よつて同人らをして右小林方ほか原判示八三名方を戸々に訪問させ、右候補者のため投票を依頼させて、戸別訪問をさせ、(二)前記稲葉ほか三二名に対し右選挙運動をすることの報酬等としてそれぞれ原判示金員を供与した事実を認定し、右被告人ら両名を有罪としたが、しかし、労働組合が特定の選挙に際し特定候補者を推薦する決議をした場合、組合員に対しその決議に従うように教宣することは即ち組合活動であつて選挙運動に当らないから、本件戸別訪問の教唆、従つてまた金員の供与は公職選挙法に違反しない。この点原判決は事実を誤認しもしくは公職選挙法の解釈を誤つたものであり、その誤りが判決に影響をおよぼすことが明らかであるから到底破棄を免れないというのである。
よつて、原判決挙示の証拠を検討すると、原判決摘示の各事実は挙示の証拠(但し、原判決が証拠に引用した小林ハナの検察官に対する供述調書は、司法警察員に対する供述調書謄本の誤記と認める)によつて優にこれを肯認することができる。即ち、原判決挙示の証拠によると、被告人ら両名が、原判決の詳述するとおり、二名の者と共謀のうえ、原判示の選挙に際し、前記候補者の当選を得しめる目的をもつて、原判示運動者に戸別訪問をすることを教唆して戸別訪問をさせ、その報酬等として原判示金員を供与したことが明らかに認められる。論旨は本件は労働組合のした原判示候補者推薦の決議に基きその決議に従うよう組合員に教宣したものであつて組合活動に過ぎないと主張するが、しかし、所論の決議があり、その教宣の計画があつたとしても、右被告人らは組合のために、組合員に対する教宣活動として原判示の戸別訪問をさせたのではなく、これが活動の範囲を逸脱して、前記候補者の当選を得しめるために、しかも専ら組合員の家族を対象として戸別訪問をさせたのであつて、かかる本件戸別訪問の目的、対象および内容よりすれば、到底これを正当な組合活動として容認すべき教宣活動ということはできず、ひつきよう、右被告人らは労働組合の教宣活動に仮託して公職選挙法第一三八条第一項違反の戸別訪問を教唆し、同法第二二一条第一項第一号に該当する選挙運動者に対する金員の供与をしたものであり、記録を精査し、当審における事実取調べの結果によつてみても、未だ叙上の判断を左右するに至らない。さすれば右被告人らが選挙運動たる戸別訪問を教唆し、その報酬等として金員を供与したとする原判決の事実認定は正当であつて、所論のような事実の誤認もしくは公職選挙法の解釈の誤りはなく、論旨は理由がない。
(松本 海部 石渡)